公園で子どもたちと遊んでいたら、衝突音が聞こえてきました。
ズガーン
結構な音量です。おいおい、大丈夫かいな。
子どもたちには遊具から離れないように指示し、すぐそこの現場へ走ります。
住宅地の小さな交差点で、初老の男性が倒れていました。自転車のフレームが歪み、ぶつかったと思われる車もその場で停まったままです。外れて垂れ下がるサイドミラーが接触の激しさを物語ります。
イタタタと初老男性。停車している車を指差し、突っ込んできたと怒っています。よかった、生きている。出血もないし、大丈夫そうです。
助手席からモタモタと降りてくる女性。年季が入ったバアサンです。
アラアラなんて言っていますが、歳のせいか動きも喋りも緩慢で、事故を起こした焦りが感じられません。アナタ大丈夫そうね、なんて声をかけています。こらこら。
運転席からは男性が出てきました。スローモーション。ちょっとプルプルしている。
こりゃやべえなと思いましたが、正面から向き合うと想像を超えるヤバさ。充分長生きして、もはや未練はないクラス。筋力が落ちているのか関節を伸ばせておらず、身体が震えています。
鼻にはチューブを通しており、片手に杖、もう片方にはチューブに繋がったボンベみたいなものを持っている。えっ、あなたは運転してもいいの? っていうか、病院にいなくていいの? いつ死んでも不思議じゃないよ。
プルプルが、アンタ大丈夫か、と初老に問うています。痛がる初老の太ももを杖でつつく。おいおい、なにしてんねん。
行っていいかと聞いてきたので、えっ?と言っておきました。マイッタナーみたいなことを呟いていて、こりゃまいった。
管轄機関に連絡し、緊急車両の到着を待ちながら、何が起きたのか初老に聞いてみました。プルプルは声帯もガクガクしていて聞き取りづらいし、バアサンはアラアラと言い続けるだけだし。
どうやらプルプルが交差点でスピードを落とさずに右折して、自転車で横切っていた初老を撥ねたらしい。アラアラ
初老の足の痛みが落ち着いてきたようで、大事には至らなさそうです。5分待っても警察も救急も来ないので飽きてきました。
街の見回り隊と書かれたノボリを持ったグループが、折よく通りかかりました。老人ばかりの集団なので当事者たちの気持ちに寄り添えることが出来るでしょう。現場を任せて公園に戻りました。
子どもたちに事故の様子を話し、プルプルが初老を轢いたことを説明します。
いいかい、子どもたち。訳が分からなくなった老いぼれが運転する車という凶器が世の中には溢れている。お外に出るときには、本当に気をつけるんだよ
せっかくの機会なので、見本としてプルプルを見せに行こうかとも思いましたが、自重しました。子どもに恐怖心を植え付けすぎてはいけません。
救急車が到着したのは、15分ほど経ってからです。緊急を要する事態だったら、すでに死んじゃっています。自分のことは自分で守るしかない。
大丈夫ですか、おじいさん!!
あのですね隊員さん、そっちじゃないです。プルプルは轢いたほう。緊急度合いは高そうだけどね。
続いて警察も到着。大丈夫ですか、おじいさん!! だから、そっちじゃないって。
いつの間にか、見回り隊はいなくなっていました。面倒な対応はしたくなかったのでしょう。ノボリは失踪した際に発見しやすいよう、家族に持たされているだけなのかもしれません。これからは間違って頼りにされないよう、徘徊老人チームと名乗ってください。