こんな経験はないだろうか。
成田空港に到着したのに、搭乗予定の便が案内されていない。
フライト遅延や取消を危惧しつつ、地上係員に問い合わせてみる。
意識せずとも、ついつい美人に声をかけてしまうのは男の性だ。
彼女は恐らく研修中なのだろう。
潤む瞳は自信に溢れつつも頬には研修中の不安が潜み、航空会社で働く夢が叶った興奮も入り混じっている。
受け答えはハキハキしており、言葉選びに聡明さが覗く。彼女の未来は明るい。
あのぉ、僕の便がないんですけど
お調べいたしますカタカタカタ
お客様の便は羽田でございますニタァ
タクシーに飛び乗り、羽田へと急げ。45分で到着すれば間に合う。
運転手のおじさんは、1時間くらいだねー、などと言っているが、見てくれ僕の形相を。
熱い気持ちを共有し、道を飛ばす。
彼の優しさは目じりの皺を見れば分かる。白色が交じった髪と焼けた腕に歩んだ道のりが刻まれていた。
オーケー、彼に任せておけば大丈夫。
宮野木、東雲、有明、大井。道は空いていた。
シートに体重を預け、しばし放心。首都湾岸線から眺める東京湾は、いつも悲しく美しい。波が西日にキラキラ輝く。
どのターミナルかと聞かれ国際線だと答える。
いや待てよ。今日はノッてない日だ、再確認。
Terminal Iの文字。あっぶねー。
運転手さん第1ターミナルだ。なるべくカウンターに近い降り場をお願いします。
釣り銭の確認もせずレシートごと握りしめ、走る。
スーツケースがけたたましい走行音を鳴らし、皆が目を向けた。気にしている余裕はない。
発券時間を5分ほど過ぎているが、これぐらいなら対応をお願いできるだろう。
柔軟性がありそうな、かつ綺麗な人を探す。スタイルがよく、チャーミングであれば最高だ。
すみません、ちょっと遅れてしまいましてハァハァ
すぐに搭乗手続きをいたしますムムム
お客様。出発ターミナルは国際ターミナルでございますニタァ
マジかよ。ウソだろ。・・・ちょっと待て、さっき確認したぞ。こうなったら責任転換だ。
EチケットにTermial Iって記載がありますよドヤァ
お客様。1ではございません、InternationalのIでございますニタア
凍てつく風に吹かれデッキで缶コーヒーを啜った。
あぁ、青い空へと白い機体が飛び立って行く。
会社には面白おかしく報告し、事なきを得た。スーツケースの車輪が吹き飛んだエピソードが良かったようだ。