禍々しい光にタバコの煙が揺れる。
耳に障る不協和音に近い音楽と、さんざめく衝撃音。
灰色の瞳で回転するレールを眺めていた。
財布のなかの1万円札が10枚の千円札へと変換されて暗闇へと吸い込まれていく。
開店に合わせて目当ての台へと走り、諦観と絶望の漂流。
夜10時に店から出ると、酒が交じった笑い声がまとわりついてきた。
しまりのないニヤけ顔を載せたスーツ姿の集団を鬱陶しく潜り抜け、原チャリでアパートへと戻る。
腹はすいたが食欲はない。
一升瓶の焼酎を舐めながら、深夜のテレビを眺めている。
ああ。日常。
僕の大学生活。
新型コロナの拡大を防止すべく、外出自粛要請が続いています。
学校は早々と休校になり、図書館や博物館も閉鎖されました。
楽しみにしていた法隆寺の金堂壁画展覧は取り止めです。
残念だ。
こんなときこそ宗教に頼ればいいのに。
日本全体が外出自粛に傾くなか、営業を続ける一部のパチンコ屋に非難が集まっています。
そりゃあね。
屋内だし不特定多数だし。
徹底的に不要不急だし。
経営者も苦情を受けるのは不本意だろうけど、開店すればアドレナリンに飢えた狂者が集まることを見越しています。
還元率は抑えられ、客の勝利は見込めない。
それでも遊戯場へ足を運ぶ人たち。
ああ。
気持ちは分からないでもないです。
僕もそうだった。
お盆とか正月とか、出玉が絞られているのに通っていました。
超越したアドレナリンが、そこにあるのです。
パチンコ屋から足が遠のき、10年以上が経ちました。
たまに遊びに行きたくなっていたけど、その衝動もなくなりました。
理由は明白です。
株式投資を始めたから。
1千円とか2千円の話ではないですからね。
1万円や2万円ですらない。
日々、100万円以上が増減します。
充分すぎるほどに過剰なアドレナリン。
大抵は起床時に株価を確認するから、早速クライマックスを迎えて1日を過ごす。
今までの最高額は852万円です。
無くなった。
無くなったんだよ。
アカン、思い出しただけで腕が震えええててkkきたたたttあ。
パチンコにのめり込んでいる人は、おカネが好きです。
というよりはおカネが好きだからこそ、パチンコに通う。
専門書を読み、少しでも勝率を上げようと研究します。
努力しているのです。
そして意気揚々と実践し、おカネをむしり取られるという闇。
株式投資も勉強が重要です。
研究すればするほど、儲かるような気がする。
パチンコと変わらへんがな。
僕が調べた限り、株式投資はプラスサムゲームらしいです。
資本主義社会は富を生み出し続けて存続を続ける。
パチンコは典型的なマイナスサムです。
客が拠出したおカネから運営費を稼ぎ出されているのです。
パチンコ屋や遊戯者は、それぞれの哲学に沿って行動しています。
非難しても事態は好転しません。
文句ばっかり言っていると、野党と同じレベルになっちゃうよ。
証券口座を開設するという提案はいかがでしょう。
定額給付金は日経平均のETFで受け渡すのです。
株式市場に資金が流入するし、アドレナリン対策も代替として充分です。
株価上昇にはコロナ収束が欠かせないから外出自粛の促進にもなります。
株価を介して社会に対する一体感も生まれることでしょう。
コロナをきっかけにギスギスしてしまった社会を救う株式投資。
すでに充分な資金を株式に投下している僕たちは、社会の袋小路に迷い込んだギャンブラーを叩くばかりではいけません。
社会平穏のために先陣を駆け続けましょう。