写生を芸術の域まで高めたのは円山応挙です。
1733年に生まれた応挙は狩野系の石田幽汀門下に入り、修行期に携わった「眼鏡絵」制作で渡来の遠近法を学びました。
応挙の絵の特徴は写実的であること。
応挙以前に活躍した画家もスケッチ(写生)は残してはいますが、それらはメモや下絵として書かれています。
当時の日本画は2次元的で、奥行きの表現が強くありませんでした。
それはそれでヨーロッパ芸術界にもてはやされアールヌーボーの一端にもなったのですが、日本の画家は奥行きの表現を海外絵画に学んだのです。
応挙の写生は特出しており、当時から称賛をもって受け入れられています。
徹底的な写実。
描かれた子犬の絵はもふもふ具合まで完璧に再現されています。
〈狗子図〉敦賀市立博物館蔵
円山応挙を師にもち、律義な写実に大胆奔放な描写を加えた画家が長沢蘆雪です。
生命感溢れる筆線と独特な形態描写。
必見は無量寺の竜虎図襖です。
応挙の受注を完成させるために紀伊国に向かった蘆雪が、持参した応挙の絵をはめ込むのではなく、なぜか自分で描いてしまっている。
和歌山には蘆雪の絵が多く残っており、生命力に溢れる傑作ばかりです。
道中で蘆雪の何かがはじけたのでしょう。
〈竜虎図襖〉無量寺蔵
実物は串本の無量寺に隣接した串本応挙芦雪博物館にて拝観することができます。
絶対に見たい。
串本は和歌山の最南部です。
関東からは、まずは大阪に向かい、特急くろしおに乗って向かいます。
東京からの乗り換えは新大阪での1回だけなので簡単なのですが、なんと6時間半もかかります。
6時間半か。
フィリピン行けちゃうね。
無量寺の和尚と親交があり絵を描く約束をした張本人の円山応挙は、和歌山を訪れたことがなかったと思われます。
当時の道中は気楽なものではなく、応挙は旅嫌いだったのです。
蘆雪ものちに見る機会はなかったことでしょう。
6時間半?
見れるならいいじゃない。
文句を言ってはいけません。
発展した交通事情を存分に活かし、傑作を生で鑑賞する機会を得たいと思います。
勇んで和歌山に出発する前に、無量寺のホームページをきちんと確認すること。
出陳されていたら、悔しすぎて憤死します。
2020年の予定は9月12日~11月8日が大阪のあべのハルカス美術館、11月10日〜12月30日は京都の京セラ美術館に展示されるようです。
注意しましょう。
ん?
大坂? 京都?
難易度が下がりましたね。
行ってこようかな。
無量寺では墨画襖絵55面がもとの無量寺本堂と同じ配置に復元されて、畳の上に坐った視点でみられるそうです。
その経験も捨てがたい。
せっかく便利な世の中に生まれてこれたので、あの手この手で稀代の名品を楽しみ尽くしたいと思います。