お友だちと学校に行かない。
妻に起こされた長女はそう言うと、布団のなかに潜り込みました。
遮光カーテンを開けると暗闇に色彩が甦ります。
止まっていた時間が動き出すかのように。
今日も天気が良さそうだ。
放射冷却現象で空気がピリリと冷え込んでいます。
家族みんなの体温で窓ガラスが濡れている。
もう、ダメなの。一緒に行けないの。
震える声が布団のなかから漏れ出してきました。
長女は、朝早くに家を出ます。
会社に勤めていた頃の僕が起き出す時間には、すでに身支度を済ませていました。
お友だちの家に寄り、連れ立って登校するために。
昇降口が開くより先に学校に到着し、縄跳びや鉄棒をして開錠を待っているそうです。
友だちとの約束があるので、準備が遅くなると注意しなくてなりません。
長女のせいでお友だちまで学校に着くのが遅くなっちゃうよ。
寒いなか早起きして、準備を終わらせてくれているってすごいことなんだよ。
朝の時間は貴重だということを子どもに教えなくてはいけないのです。
ちょっと嫌なことがあったのかもしれないね。
落ち込む長女を励まします。
子どもの世界観も尊重しながら。
長女は友だちと軋轢を生むタイプではありません。
意外ですが、まぁ大丈夫でしょう。
ケンカしたってすぐに仲直りできます。
子どもってそんなもんです。
怒られるから。
布団のなかから返答がありました。
えっ!? どういうこと??
長女が遅いから、友だちに怒られるのかな。
そんな理由で怒ってくるような高圧的な子には見えなかったけれど。
違うらしいです。
友だちが、親に怒られるらしい。
朝の準備が遅いことを叱責されていたそうです。
長女が迎えに行っても、準備が終わっていないことが多かったらしい。
朝からガンガン怒られて、友だちの心が折れてしまいました。
ピンポンを鳴らしてから、しばらく待っていたそうです。
朝早いのに。
寒いのに。
怒ってくれる家庭で、むしろ安心しました。
長女には色んなトラブルを味わって欲しいと思います。
上手くいかないことや悲しいことを乗り越えて成長していく。
今回は先に友だちが音を上げてしまいました。
それもまた、いい経験になるでしょう。
今日は暖かいお布団での惰眠を貪ればいい。
おかしな試みに挑戦するよう、これからも長女をけしかけていこうと思います。