颯爽とステージを降りる社長。
拍手で見送るフレッシュな新入社員たち。
取り残される僕。
年度初めです。
新入社の皆さんへは社長からのありがたい講話があったことでしょう。
広い講堂に集まったリクルートスーツの一堂。
ステージに上がり、貫録たっぷりにマイクを受け取る社長。
夢を叶えるために会社を利用してね、とか。
会社の枠組みを壊してくれて構わない、とか。
分かっているとは思いますが、あんなのは嘘ですよ。
期待の範囲内で従順に活躍してくれる作業用ロボットが求められているのです。
現状打破が期待されているぞ!!頑張って能力を発揮しよう!!!
と素直に肯定できた新入社員の皆様。
おめでとうございます!
才能があります。サラリーマンの才能。
誰もが持ちうる能力ではありません。
65歳までの安泰が確実です。
億万長者物語なんて読んでないで、これからも仕事を頑張ってください。
皮肉でもなんでもなく、本当に素晴らしいことだと思います。
創業期の企業は、本当の革新を求められている可能性があります。
既存勢力を打ち破り、資本主義社会での生存に危機感を持って挑戦する。
いいよね。
でも、そんなチャレンジングな環境で戦える能力があるのなら自分で起業すればいいではないかと思ってしまう。
スタートアップ企業に勤務してキレッキレのアピールをしておきながら、会社に縛られているのって矛盾していない?
まぁ、いいや。
大抵の日本企業は老舗です。
良いのか悪いのか、日本では企業の新陳代謝が進みません。
そして、社長がサラリーマン化します。
会社に勤めていた頃、取引先の企業の社長講和に参加させていただく機会がありました。
関係者にも企業文化を感じる機会を提供したいということです。
社長は就任して間もなく、新しい風を送り込もうと意気込んでいます。
それまでの武勇伝やサラリーマンの心意気を語ってくれるのだろうと楽しみにしていました。
僕は自分の何かを変えてくれる刺激を求めていたのです。
社長のプレゼンが始まりました。
入社を祝い、前席の若者をいじり、徐々に業務の話へと移行していく。
さすがは会社を代表する人物です。巧みな話術に引き込まれます。
そして始まる会社案内。
企業の沿革を説明し、業務の拡大について解説していきます。
当時のプロジェクトに自分がどう関わっていたのかも。
幾度の失敗も重ねて、それでも諦めずに頑張ってきたらしい。
組織の現状を説明していたところで定刻を過ぎました。
プレゼンは途中でしたが時間通りに終了。
次の会合へと向かうのでしょう、質疑応答は受け付けずに即座に会場を出る社長。
厳格な雰囲気を醸し出します。
新入社員の皆さんは、羨望を隠さない眼差しで社長の後姿に拍手を送ったのでした。
・・・それでいいのか?
説明会ではないのです。
会社の沿革だの、組織の現状だの、そんなの企業サイトを見れば分かります。
部外者の僕だって把握しているのです。
採用された優秀な若者だったら暗記しているぐらいに読み込んでいることでしょう。
質問も受け付けられないほど時間に追われている社長が、自ら語り掛けなくてはならない重要性があるのか。
講話をセッティングした担当者から、伝えて欲しい内容をそれとなく示唆しておけばいいのに。
お願いしたテーマが会社案内だったのだとしたら、そいつは確信犯です。
社長に熱意がなくなったら組織は終わりです。
自分が引っ張っていこうという意思は微塵も感じられなかった。
頼まれたから喋っただけ。
役割だから応じただけ。
社長は社員が憧れる対象でなくてはいけない。
ピラミッドの頂点を目指して、従業員たちは奉公するのです。
お喋りが上手だとか、世渡りに妙があるとか。
そういうことではない。
サラリーマン感覚の社長に任せている企業に未来はないし、そんな社長に憧れている社員に期待はできません。
残だけど、安定した成長を続けて成熟した企業には同じような傾向が見られます。
僕はサラリーマン環境で生きていくことに絶望してしまいました。
65歳まで騙し合いに付き合うことはできない。
そうして会社を飛び出したのです。
安定した収入を失い、莫大な時間だけが手元に残った。
新しく社会に参加する皆さん、おめでとうございます。
サラリーマンの才能があるひとは思う存分に活躍してください。
大丈夫。
そうではない人も愕然としないで。
同じ思いを抱いた人はいますよ。
とりあえず、ここに1人。
応援しています。