押し込まれた車内。
周囲のサラリーマンからは酒臭さが漂う。
僕を取り囲むグレーのスーツ集団。
熱がこもり、うっすらと湿気を発している。
電車のヘッドライトは暗闇のなかを切り裂いて進んでいく。
どこに向かっているのかは分からない。
そもそも目的地という概念は存在しているのだろうか。
猛烈なスピードにレールを軋ませ、金属音のうなりを上げながら、僕たちを運んでいく。
・・・。
汗びっしょりで目が覚めました。
会社を辞めてからも、定期的にサラリーマン時代の夢を見ます。
目覚めの悪い夢。
2時くらいに起き、そのまま眠れずに過ごすこともあるほどです。
僕のサラリーマン時代が、どれほどの精神へのダメージを与えていたのかがよく分かります。
あの頃は憂鬱ではありながらもちゃんと出勤していたし、たまにやりがいを感じたりもしていました。
それが異常だったのでしょう。
そうではないとすると、後遺症についての説明が付きません。
僕は最終電車で帰ることが度々ありました。
労働基準法を厳しく適用していたしコロナもあったので機会は減ってはいましたが、それでも終電間際まで拘束されることがあったのです。
大抵は飲み会です。
同僚と喋っても発展的ではないのだけれど、僕はお酒が入ると楽しくなってしまいます。
ついつい、グラスが進んでしまう。
つまり、最終電車に揺られるのは僕のせいです。
最終電車では寝てはいけません。
うっかり目を閉じてしまったが最後、終点まで目を覚ますことはない。
深夜だし、疲れているし、おまけに酔いも回っています。
乗り過ごす危険性だけでなく、消化途中の物体を公共の場に晒してしまうことだって有り得るのです。
座ってはいけません。
つり革につかまって立つ。
これが基本のポーズです。
残念ながら立っていようが睡魔には襲われます。
そんなときはどうするか。
どうしようもありません。
眠気に抗えずに眠ってしまい、膝から崩れるだけです。
電車の揺れに任せて吹き飛ぶサラリーマン。
僕です。
周囲の驚きの目。
疲れて緩んだ車内に、ピリッとした緊張が走ります。
視線を感じつつも、何事もなかったかのようにすっと立ち上がるのです。
座って眠っていた中年男性の胸元にダイブしたこともあります。
すごくビックリされました。
そりゃそうだ。
僕の退勤風景の思い出です。
狂っていますね。
飲みすぎる僕が悪いんだけど。
こんなことを10年以上も続けたら、後遺症だって残ります。
退職したからって清々しくリセットなんて出来ず、悪い夢に悩まされる。
何かがおかしいことに気付いてよかったです。
あのままサラリーマンをやっていたら、回復不能な脳のダメージを負っていたと思う。
組織を自分と同一視し、自己概念が融解していく。
胸元にダイブされる側の中年男性になっていたかもしれませんね。
気持ちは分かるから、優しく心配してあげよう。
ゴールデンウィークが始まります。
自分を見つめるいいチャンス。
会社生活が自分への深刻なダメージになっていないか、少し俯瞰的な目線で考え直してみることをお勧めします。