ウノ!
高らかに宣言された。
嘘だろ。その手はなかったはずだ。
幼稚園へと出発する前の、朝のひと時。
二女の策略がさく裂した。
幼稚園児の朝は忙しい。
寝ぼけながら朝食を食べ、連絡ブックを揃えて制服に着替える。
ティッシュとハンカチをバックに入れたことを確認し、健康観察手帳には当日の体温を記入しなければいけない。
体操服袋も忘れずに。
さらに我が家では、洗濯物を干すのも二女の役目なのだ。
僕が会社を辞め、二女と朝を過ごすようになって半年が過ぎた。
すでに朝の支度には慣れており、出発の目標時間までには余裕がある。
僕はブログを書き、二女は本を読んだり折り紙を折ったりして朝の時間を楽しでいる。
その日は二女が誘ってきた。
お父さん、ウノしよ。
おいおい。
コテンパンにやられて泣きべそで登園する覚悟はあるか。
僕は子どものころからウノをやり込んできた。
幼稚園児に負けるほどヤワではないのだ。
7枚ずつ配り、順番に手札を減らしていった。
なるべく特殊カードから使っていく。
最終版で手札を出しやすいように、同じ数字の色違いカードを残しておくことも怠らない。
二女残り4枚。僕が3枚。
よし。そろそろ仕掛けるか。
二女の番。
赤のスキップを出された。
二女の番。
次もスキップ。青色へ色チェンジ。
為す術がない。
そして宣言したのだ。
ウノ!
手札は2枚。
二女はダブル出しを仕掛けてきた。
赤と青の3。
鬼コンボ。
完敗である。
幼稚園へと出発する二女。
茫然と見送ったのである。
眠る前に再戦を果たした。
長女と長男も参加する。
次は負けない。
場はドロー2の気配。
ドロー2は次の出し手に場から2枚引かせ、その番を終わらせる攻撃系のカードである。
ただし、ドロー2や上位札ドロー4で先送りすることが可能。
我慢比べだ。
終盤、長女が仕掛けた。
ドロー2。
二女がドロー2を重ねて、僕も続く。
この時点で、引かなければならないカードは8枚。
長男の番。
ドロー2。
やはり持っていたか!
攻撃系カードは仕掛けを遅らせることで優位になることが多いのだ。
落ち込む長女。
表情を一変させて繰り出した。
ドロー2。
まだ持っていたのか!
あえて仕掛け時点で重ねて出さない戦略。
手札を減らすのが遅れるが、防御力が兼ね備える良策である。
子どもたちは成長する。
ルールを把握し、自分たちで策を練ってきていた。
侮ってはいけない。
いつまでも大人の腕のなかで守られる存在ではないのだ。
大人は保護者の立場に甘んじないこと。
子離れできない親になってしまう。
自分の役割は何歳になっても自分で見つけ出さなくてならない。
合わせて10枚のカードを引く二女。
凄まじい攻防に笑みがこぼれていた。
以前だったら泣いていたことだろう。
子どもは、いつまでも子どもではないのである。