長男がけたたましく笑い始めました。
あかん、暑さで頭をやられたのかもしらん。
長男は余計なことばかりするので頻繁に怒られます。
机を揺らして宿題に取り組む長女の邪魔をする。
ソファを揺らして昼下がりの眠りについた二女を起こす。
誰も幸せにならないことをするんじゃない。
長男を呼んで叱ります。
面倒なので放置しておきたいところですが、子どもを真っすぐに育てるのは親の努めなのです。
他人を気にしてはいけない。
自分のことに集中しろ。
諭すように話しますが、暑さが手伝って僕もイライラしています。
ついつい声が大きくなってしまう。
長男を打ちのめしにかかります。
しばらくしょんぼりしておいてもらいたい。
ゆっくりオリンピックを観戦していたいのです。
今まで、いかに同じことで叱られてきたのかを説明します。
成長がないのはよくないぞ。
睨むような視線で挑んでいた長男に変化が訪れました。
肩をわなわなさせています。
それぐらいでちょうどいい。
涙のひとつでも流して悔い改めていただきたい。
涙目になる長男。
ついに堪えきれなくなったようです。
広がる顔面の笑み。
吹き出しました。
突然の大笑い。
あかん、我が家の大事な長男が壊れてしまった。
扇風機が面白かったそうです。
首を振らせて部屋中に風を送っていました。
羽が僕のほうに向くと共振し、僕の声が変わります。
子どもの頃、夏の日に楽しんだあの現象です。
僕の訓諭は長男には少しも届いていませんでした。
残念ながら声はメッセージにはならず、扇風機で面白くなる愉快な音源でしかなかったのです。
そんなものです。
構いません。
大人にちょっと言われたからって落ち込むようでは世の中を渡っていけない。
逆に心配になってしまいます。
上の空で聞き流して自分の世界を楽しんでいるぐらいがちょうどいい。
世の中にはいろいろと言ってくる人がいます。
いちいち相手にしてはいけません。
暑かったりオリンピックを見たいだけなのです。
扇風機に当たったら愉快な音に変わるような雑音。
放っておけばよろしい。
長男を見習い、気楽な渡世を送ろうと思います。